昭和天皇と鰻茶漬

矢部金次郎著「昭和天皇と鰻茶漬」を読みました。

食に関することだけでなく、宮内庁職員の視点での皇室の裏話的なものが詰まっていました。

辛いことや大変だったこともたくさんあったに違いないのに、良い思い出だけを綴ってあるので、安心して読めます。特に、那須御用邸で昭和天皇のお孫さんの遊び相手を務める羽目になった話が好き。

「大善から見た食」という章には共感しました。

しかし、価格が安いということは、本当にそんなにいいことずくめなのでしょうか。

安いものの多くは、よくいわれるように企業努力で価格を下げたというよりも、もともとそれだけの価値しかないもの、ものともとが安いものでしかないのだと、私は推測しています。

(中略)

ものを作るにしても、いいものを心を込めて提供しようという人たちが少なくなっています。いいものを提供しようとすれば、当然ながら時間はかかるものです。それなりの費用もかかります。片手間やアルバイトでできることではないのです。このことを忘れてほしくないのです。

これは本当にそう思います。でもそれは、提供する側の問題だけではない、とも思います。購入する側の意識の問題も大いにありそうです。「本当に良いもの」に対して適正な価格を支払って購入したいという人が増えれば、自然にそういうものの供給が増えていくものではないのでしょうか。そうした賢い選択眼を持った人がもっともっと増えていくといいなぁ、と思います。

「侍医の警告」という章も、一般にあてまはる内容だと思いました。昭和48年、昭和天皇72歳のときに、侍医から大善に対して次のような警告と要請があったそうです。

「カロリーは、それほど必要ない。1日1500〜1800カロリーでよく、糖質、脂肪、たんぱく質のバランスが大切である。

たんぱく質については現在、問題がなく、塩分も問題はない。いちばんの問題は脂肪の取り過ぎである。植物性だからいいということではなく、動物性、植物性合わせて1日40グラムでいい。

たんぱく質は消化しやすいが、脂肪は消化しにくい。そのため、胆嚢、膵臓が衰え、なお脂肪の消化力が落ちる。脂肪の摂取量は陛下ご自身で制限願うことはむずかしいので、献立の上でなんとか減らしてほしい」

まずとくに脂肪の摂取について危惧を示し、具体的にキャベツ、椎茸、アスパラガスなどのバター炒めについて触れ、

「これらの中に含まれる水分が出てしまったあとに、バターがしみ込んでしまうため、見かけ以上に脂肪分を含んでしまう」

と警告しています。

「糖質、とくに砂糖を菓子類で取り過ぎることも問題である。糖質は体内で脂肪に変わる。ご高齢になるほどカロリーとしての放出の効率が悪く、皮下脂肪としてたまるほか、細胞の間にも蓄積される。その結果、臓器の働きも悪くなる。そのため血液が多く必要となり、心臓に負担をかけ、糖を体外に排泄するために膵臓、とくにそのホルモンであるインスリンの働きにも負担がかかる。

お菓子を召し上がるために、主食であるごはんやパンを召しあがらないのは問題である。糖質を1日50グラムに抑えるために、とくに問題である食後のお菓子の摂取については、侍医みずから奥に話をする」

まさにダイエットそのものの内容です。我慢してばかりじゃ味気ないからメリハリはつけるとしても、こうした大原則は忘れずにいたいと思います。

昭和天皇の崩御とともに退官した人というのは知っていたので、もっとずっと歳のいった人かと思っていたら、退官した時にまだ43歳だったと知ってびっくりしました。その後どうやって生計を立ててきたのかしら。この人自身のその後の話も、もっと読んでみたいと思いました。